「学校で聞いたんですけどぉ…………」
―何を聞いたんです?
「基本がわかってれば、東大にも入れるんですよね!」
―うん?『基本』ってどんな科目の基本でしょう? 『わかってる』ってどういう状態のことです?
「え??」
………………(顔を見合わせること数秒)
「わかりません、そんなの。だって聞いただけですもん!わかるわけないじゃないですか!!」
―…………それを聞いてこないと………
同志社大学のホームページにこんなページがあります。
一般企業300社および卒業生採用実績企業106社対象
■採用したい人物像
・コミュニケーション力が高い 86%
・課題解決のための交渉力がある 68.3%
・人・モノ・情報などの管理能力がある 60%
・業務推進能力がある 60%
(「同志社大学企画部ニーズ調査」http://globalcommunications.doshisha.ac.jp/career/career.htmlより)
「コミュニケーション力」。
ということはつまり、英語や中国語をマスターすればいいの?
よくはないでしょう、おそらく。
英語はコミュニケーションのためのひとつの道具でしかありません。じゃあフランス語やドイツ語やスペイン語………
ちょっと立ち止まって、日常を、日本語で、思い出してみましょう。
学校で、家庭で、お店で…、「コミュニケーション」が成立しないことが多々あるはずです。
A:おい、コロッケ買ってきたぞ
B:おお、うまそ~
A:おい、なんだよ、それ
B:え? ソース
A:何言ってるんだよ、コロッケと言えば醤油だろ!
C:おいおい、コロッケはケチャップをつけて食うものだ
自分にとってあたりまえのことでも、相手にとってはあたりまえではない。そんなことはザラです。ここで、いわゆる「ギャクギレ」したり、三人がそれぞれ「ソース」、「醤油」、「ケチャップ」を取り出してしまっては、コミュニケーションは成立しません。
コロッケを食べることも忘れ、「コロッケにはソースが一番ふさわしい。なぜなら…」、「いやいや醤油こそがコロッケと一番相性が良いのだ。例えばこんな状況を…」、「待て待てケチャップこそ……」と自分の考えを述べ、相手になるほどと思わせたり、または相手の意見になるほどとうなずいたりすることこそ、コミュニケーションのはずです。
すると「コミュニケーション力」は、
「リスク・マネージメント(危機管理)能力」、さらには「生きる力」を含んでいることになります。
え?コロッケが「危機」!?
「コロッケには醤油!」という自分にとっての常識が通じない、すなわち「マニュアル」にない出来事、それを「想定外の危機」と呼ばずして何と呼びましょう。
空から人が降ってきた。そんなあり得ない事態に立ち止まってしまっていたら、降ってきた人と衝突して死んでしまうでしょう。どんな危機に直面しても決して思考を停止することなく、「マニュアル」の外、つまり自分の責任で、物事に対処する、または人々を説得する。それが危機管理力であり、サバイバル能力です。
悠長にコロッケを食べているヒマはないのです。
「基本」がわかっていれば東大にも入れる……?
数学の基本問題(頻出問題)は200~250問ほどだと言われています。数学に限らず、入試にはこうした「パターン問題」がたくさんあります。それを100%自分のものにしておけば、たしかに東大にも入れるかもしれません。
しかし、「コミュニケーション力」を培うことはできないでしょう。
「パータン問題」とは「危機管理マニュアル」にすぎず、それを習得するとは「マニュアル」通りに物事に対応する能力を身につけることでしかないからです(この能力のほうが社会では重宝がられているような気もしますが…)。
所詮「受験勉強」なんてそんなもの……
ではありません。
基本問題の先に、「応用問題」があります。
「応用問題」。それは、見たことのない「想定外の危機」です。
したがって「応用問題」を解くということは、想定外の危機に直面しても思考を停止することなく、限られた手持ちの駒をフルに活用してその危機に対応するということ、そしてその対応方法を他者(問題作成者)に的確に伝えるということであるはずです。
いつ何時わが身に生命の危険が降りかかるかわからないという危機感に覆われたこの世界を「生き抜く力」が、「受験勉強」によって培われるのです。
どうです!「受験勉強」もステタモノじゃないでしょう。
ウダウダ言っていないで、とりあえず机の前に座ってみましょう。
座ったら、とりあえず問題集か参考書を開いてみましょう。
開いたら、少し、読んでみましょう。
さあ、「受験勉強」のはじまりです。
重岡先生より
P.S.「応用問題」は、決して答えを見ず、2日でも3日でも考えに考え抜きましょう。